最高裁判所第一小法廷 昭和22(れ)41 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
被告人両名弁護人加藤晃の上告趣意は、「原判決ニ依レバ被告人A、同B、原審
相被告人C同Dモ前記ノ兇器ヲ携へ相前後シテ屋内ニ侵入シタ上EハF以下家人十
名ヲ同家表十畳ノ間ニ集合サセテ日本刀ヲ差付ケ「自分達ハ共産党ノ者デ二、三ケ
月前ニ大阪カラ来タ、二十日余モカヽツテオ宅ニ隠匿物資ノアルコトヲ調査シテイ
ル、倉庫ニ案内シテ呉レ」ト言ツテ脅迫シテイル時被告人Hモ表入口カラ侵入シテ
来テ家人ニ対シテ持ツテイル手榴弾ヲ投付ケルヨウナ気勢ヲ示シナガラ、「騒グト
危イゾ」ト言ツテ共ニ脅迫シ因テ家人ヲ怖レサセテソノ抵抗ヲ抑圧シタ後被告人H
ハ家人ヲ監視シEハFヲ促シテ同家ノ倉庫ニ案内サセテ之ヲ開ケサセルト共ニ同人
ヲ監視シソノ間被告人A同B原審相被告人C同Dノ四名ハ福岡県食糧課ノ委託ニヨ
ツテFガ保管中ノ同倉庫内ニアツタ牛肉ノ缶詰七十一梱(一梱八十個入)ヲ持出シ
之ヲ待タセテイタトラツクニ積込ンデ持退リ、共同シテ強取ノ目的ヲ遂ゲ云々」ト
判示シ刑法第二百三十六条第一項同第六十条ヲ以テ処断シテイルノデアルガ被告人
Hガ福岡地方裁判所予審廷ニ於テ予審判事藤井亮ニ対シテ為シタル第二回予審訊問
調書中問七ノ答(四四五丁)ニ於テ「尚家人ガ騒ギソウニ思ハレタノデ私ハポケツ
トカラ手榴弾ヲ取出シテ右手ニ持ツテ夫レヲ家人ノ方ニ差出シ乍ラ騒グト危イゾト
脅シ付ケタラ老主人ガ次ノ間ノ電燈ヲ消シ家人十名ハ一塊リニ集ツタノデス此ノ時
若主人ガ私ニ紳士的ニ出テ居ルノダカラ騒グコトハ要ラヌト申シマシタ此ノ紳士的
ト云フ意味ハEガ紳士的ニ出テイルト云フ意味ト解シマシタガ私モ別ニ騒イデ居タ
訳デナク只手榴弾ヲ持ツタ手ヲ差出シテ脅シタノデシタカラ別ニ騒イデハ居ラヌト
申シテカラ引キ続キ君達ダケ美味イ物ヲ食ツテ良イカ君達ダケ贅沢シテ居レバ良イ
ノカト可成大声デ申シタラ若主人ハ自分達ハ何モ贅沢シテ居ラヌト返答シマシタ然
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シ私ハ引続イテ町ノ大勢ノ者ハ食べ物ハナクテ困ツテイルガ判ツテ居ルカオ前ノ家
ニハ隠匿物資がアラウガト云ウト若主人ハ隠匿物資ハ無イト答ヘマシタ夫レカラ私
ハ無イ筈ハ無イ干バナナヤ葡萄ガアロウガ一ケ月位前ニトラツクデ二台持出シテ居
ロウガト云フテ居ツタラEガ傍カラ私ニ親爺サン話ガ出来テ居ルノダカラモウ良イ
ト申シタノデ問答ハ打切ツタノデス」八問「夫レカラ怎ウシタカ」答「夫レカラE
ガ若主人ニ倉庫カラ表道路ニ通ズル処ノ扉ヲ開イテ呉レト言ヒ若主人ガ何処カカラ
取出シタ鍵ヲ持ツテEト共ニ此ノ扉ノ処ニ行キ其ノ扉ヲ開イテカラ若主人ノ案内デ
E、A、C、D及Bガ裏ノ倉庫ノ方へ行キマシタガ私ハ残ツテ家人ヲ監視シテ居ツ
タノデス云々」ト供述シ被告人Iモ同様予審廷ニ於テ供述シ証人F同Jモ同様ノ趣
旨ヲ証言シテイルノデアリマスガ右ノ事実ニ於テ被告人H、I等ノ為シタル脅迫行
為ハ被害者タルF、同Jニ対シテ恐怖ノ念ヲ起サシメ以テ其ノ抵抗ヲ抑圧セシメル
程度ニ非ザルコトハ明瞭デアリ且賍品ハ総テ右Fノ任意提出シタルモノナル事同人
ノ予審廷ニ於ケル証言ニ就テ見ルモ明ラカデアル従ツテ本件ハ強盗ニ非ズシテ恐喝
ニ依リ財物ヲ交付セシメタルモノニ該当シ従ツテ刑法第二百四十九条第一項ヲ適用
スベキモノデアル之ニ対シ原判決ニ於テ、刑法第二百三十六条第一項ヲ適用シタノ
ハ失当デアリ刑事訴訟法第四百九条ノ法令ノ違反アルモノデアル従ツテ原判決ハ破
毀セラルベキデアル」というにある。
しかし、原判決は、その第二の事実として、被告両名は、他の五名の者と共謀の
上、被告人Hは手榴弾を、被告人Aは日本刀を、其の他の者は日本刀、登山用ナイ
フ、バール等を携えて判示の日午前一時半頃トラツクに乗つて被害者方に到着し、
被告人両名外四名は相前後して被害者方屋内に侵入しその判示のごとく、或は日本
刀を差し付けて家人を脅迫し殊に被告人Hは、手榴弾を投付けるような気勢を示し
て脅迫し、家人の抵抗を抑圧した上、共同して判示かん詰七十一こおりを持出した
事実を認定し、之に対し刑法第百三十条第二百三十六条等を適用したものであつて、
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右事実は原判決の引用した証拠に依り充分認め得られるところであり、このように
深夜数人兇器を携えて屋内に侵入して判示のような脅迫行為をしたときは、通常被
害者において反抗を抑圧せられる程度の畏怖を感ずることは明瞭であるから、原判
決がその行為を強盗と認定し之に対し強盗の法条を適用したのは正当であつて何等
の違法はない。所論はみだりに自己に都合のより証拠の一部を引用して原判決の認
定と異なる事実を主張し、引いて原判決の法律適用を攻撃するものであるから採用
することはできない。論旨は理由がない。
被告人H弁護人林達也上告趣意は「原審判決は証拠を十分調べなかつた遺脱があ
る。上告人は軍の隠退蔵物資摘発生活窮乏者に分与するのが本件の目的である事に
争いはない。然るに、軍の隠退蔵物資なるや否や(本件強盗の目的物)につきて証
拠上明瞭にされて居ない。記録上、被害者が自分の所有物に手をつけるな、とか又
素直に恐怖程度低くて任意、蔵の「かぎ」で蔵を開いたとか散見し寧ろ隠匿物資の
にほひも高い、隠匿物資なら刑の量刑も亦重過ぎると思ふ」というにある。
しかし、所論の被害物件が隠退蔵物資なりやは被告人の本件犯行の動機目的に存
する主観に過ぎないものであるから、これを証拠に依り客観的に確定するの必要は
ない。従つて、これを証拠上明瞭にしなかつたからといつて、所論のような違法が
あるといゝ得ないし、其の他刑の量定に関する主張は適法な上告の理由とならない
ものであるから結局本論旨は全部理由がない。
よつて、刑事訴訟法第四百四十六条に則り主文の通り判決する。
右判決は裁判官全員の一致した意見である。
検察官松岡佐一関与
昭和二十二年十一月二十四日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔
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裁判官 沢 田 竹 治 郎
裁判官 真 野 毅
裁判官 岩 松 三 郎
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